長岡一也の岡目八目 第13回

騎手にとり、その年齢から受ける重圧というものがあるのかどうか。年を重ねることで得るものは大きいとは思います。技術的なものはもちろん、それ以上に経験からくる精神的なものの方が大きいでしょう。逆に言えば、その精神的な支えがベテラン騎手の活躍を促しているとも言えるのではないでしょうか。アメリカ大リーグがひとつの立派な文化を形成していることは、連日中継される衛星テレビの画面からも伝わってきます。そのアメリカでは、スタープレイヤーを支えているのはファンの声援だと言われてきました。
これはどのスポーツにもあてはまることでしょう。

今度、安田富男騎手が引退しました。現役最年長と言われるようになってから、めっきり騎乗が減ったと語っていました。1週間も2週間もレースに乗らない日が続くと、気持ちがおかしくなってしまう。たまに乗っても、自分のレースに対する考え方に狂いが生じてしまうんだと、真顔で言っていました。

この春、馬道で最終レースに騎乗する馬を待っていた安田さんに声を掛けたことがありました。もう、昔の名前では乗せてくれないよと寂しそうで、穴男の異名もすっかり影をひそめていました。しっかり見ていますよと話をしましたが、限界を感じているのかなとその時感じました。

とにかく気さくな人柄、あの明るさをもう一度ターフの中でと願っていたのですが、新潟での最終騎乗は見事でした。これで引退という人が、1日に2勝もすることは稀で、人の思いをはぐらかせるところは、さすがトミー。久々にうれしくなりました。

引退セレモニーも明るく、好天の日差しの中、千両役者ぶりであったと思います。

スタンドからの大きな声援こそ、これからの安田富男さんにとり何にも勝る力になったことでしょう。称える心、競馬を文化として育てるためにも続けていきましょう。


長岡一也の岡目八目 第14回

中山の開幕週は、やはり速い。スピードに慣らされた新潟開催を終えた直後でも、かなりのインパクトがありました。

京成杯AHのゼンノエルシドは、まさにマイル戦線の新星と呼ぶにふさわしく、これはかなりやれそうです。横山典弘騎手の手放しの喜びようは確かな手応えをアピールするものでした。
主役不在のマイル界に登場したゼンノエルシドの動向は、秋の注目どころ。誰の目にもこの先への期待が見えました。

マイル1分31秒5の日本レコードは、秋の開幕を告げる華々しいものでしたが、こういう速いタイムを生む背景には、必ず立役者が他にいるものです。
今度の場合は、5ハロンを56秒0で飛ばしたユーワファルコンがいました。他力本願タイプのイーグルカフェはこの恩恵によくしたとも言えます。本来なら2着のクリスザブレイヴを捕らえていてもよかったかもしれません。しかし、これがきっかけになるという期待も持てるでしょう。

競馬には、いつも逃げ馬のつくるペースが問題となります。レースを演出する重要な役割を担っていると、その立場にある馬の出方を注目しています。これは、距離の長短には関係ありません。

自らを苦しい立場におく逃げ馬ですから、勝敗とは別の、なにか健闘を称える制度がないものかと思うくらいです。
かつて、メジロイーグルという体の小さな逃げ馬がいました。その年の三冠レース全てに出走し、そのいずれのレースでもケレン味ない逃げを打ち、3つとも掲示板に上がる着順を占めてくれました。年度表彰の委員会に出席したとき、イーグルを表彰してはと提案しましたが、問題にされませんでした。仕方がないとは思っても、以降競馬を見続けてきて、逃げ馬の出方次第でレースがどうなるかを知るにつけ、心に引っ掛かっています。ですから、条件戦でも、果敢な逃げを打つ騎手を探り続けているのです。何かの役に立つと思います。


長岡一也の岡目八目 第15回

秋のG1戦線に向け、少しずつ勢力分布図が出来上がりつつあります。毎週毎週、春の実績馬か夏の上がり馬か、このテーマを追いかける日々です。気分的には、新しい顔ぶれになればと願っているのですが、セントライト記念の結果を見ると、なかなか簡単ではありません。

シンコウカリドのイレ込みは相変わらずで、その面の成長は今回に限り認めることはできませんでした。それでも中団の内で折り合いがつき、こうなれば皐月賞4着の底力、秋期待のトレジャーが抜け出したところに一気に襲いかかり、文句なく勝利していました。菊花賞3000mはどうかということで、この先のことは不透明です。2着トレジャーもこれが精一杯となれば、ここからのステップアップは困難な見通し、あまり収穫はなかったと見るしかないでしょう。ダービー馬の状態が最大の関心事になりました。

ローズSでは、少し新しい風を感じました。5月25日の遅生まれのダイヤモンドビコーが先につながれるレースで2番手から抜け出し、オークス2着のローズバドの追い込みを封じました。4月の時点で500万クラス、これで今年は5戦3勝・2着2回、折り合いに進境を見せています。しかし、トライアルはスローペースになるもので、今回もそうでした。明らかにスピード型なので、この点、本番秋華賞でどう走れるかは未知の部分と言うしかありません。

牝馬は、オークス1・2着のレディパステルローズバドが順調にステップを踏んできたので例年とは少し違います。毎年大荒れの秋華賞なんで、どこに落とし穴があるのか注意深く分析していくことになります。中でも本番の展開の読みがポイントでしょう。

牝馬はまだまだ流動的、神戸新聞杯組からわくわくするような有力馬が出てくることを願っています。レベルが高いと言われる3歳陣、明日の競馬を担う面々の筈なんですが。


長岡一也の岡目八目 第16回

着実にG1前哨戦を消化し、本番までの日数を減らしています。結果をにらみ、じっとその先に思いをめぐらせています。

G1シリーズを春と秋とに分けた場合、秋の方が成績がよくありません。春の成績があるもので、秋は考えすぎてしまうのでしょう。昨年は、その極みでした。

話せば自慢になってしまいますが、昨年春のG1シリーズは絶好調でした。フェブラリーSから始まって安田記念までずっと適中が続いたのです。
大好きなジャンプレースの中山グランドジャンプも入れてです。10レース連続して馬番連勝で当たり当たりときて、いよいよ春競馬最後のG1宝塚記念まできました。

年間全てのG1適中とまではいかなくても、せめてリーチのかかった春はと意気込んだのです。当然ですがね。去年はテイエムオペラオーの天下、宝塚もこの相手を見つければいいわけで、これは非常に簡単な筈でした。

落とし穴はこういうときにあるものです。

つい配当を考えてしまい、オペラオーから思い切って2点に絞ってしまったのです。メイショウドトウが2着に上がってきたときには悲鳴を上げてしまいました。

かくして春全勝は成らず、悔しい思いを引きずったまま秋のシリーズに入っていました。

一度狂った歯車はなかなか元に戻らず、まして秋初戦のスプリンターズSで古豪ダイタクヤマトに勝たれてしまって、すっかり調子をくずして敗戦続きでした。かろうじて、有馬記念で宝塚の雪辱を果たしたのがせめてもの慰めでした。

今年の春は、基本にかえって堅いレースも当てに行き、なんとか勝率5割を確保したのですが、正直、満足感はありません。競馬は当てるのが基本ですが、本当は、人気に逆らうところにダイゴ味があります。なんとか自分らしさを取り戻そうと、今また前哨戦の結果分析に余念がなく、雑音を断って秋の夜長、自分の世界に浸っている次第です。万福招来を祈って。


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